銀行の窓口で投資信託を買うと損をする?

金融庁が、銀行の窓口で投資信託を買うと5割近い人が損をするという統計を発表しました。ここ数年の日本と世界の経済を考えると、ちょっと考えづらい結果です。

どうやら「銀行の窓口で」というところがポイントのようです。どういうことなのか、チェックしてみましょう。

銀行で投資信託を買うと損をする

金融庁から、銀行で投資信託を買っている人の約5割が損をしているという統計が発表されました。

より正確に書くと、次のような調査です。1

  • 29の銀行(主要行9行+地方銀行20行)が調査対象
  • 「窓口」で投資信託を買った顧客ごとに損益を算出
  • 2018年3月時点で保有している投資信託の時価と買付け価格の差額を計算
  • 評価損益の計算では、手数料も考慮

こういった条件で計算すると、46%の顧客が評価損の状態なのだそうです。つまり、今売ったら損をするということですね。「含み損が有る」という状態ということもできます。

なぜこんな事が起こるのだろうか?

率直にって、これは、かなり驚くべきことです。

というのも、そもそも投資信託というのは、お金を増やすための商品です。増えていて当然なのです。

それにもかかわらず、半分近くで減っているわけです。これはかなりの異常事態と言わざるを得ないでしょう。

日本でも海外でも株価は好調

しかも、ここ数年は、日本の景気は好調です。ということは、日本の株に投資する投資信託を買っていれば、それだけで資産が増えている可能性が大きいわけですよね。

さらに日本だけでなく、アメリカや欧州でも、基本的に経済は好調です。ということは、外国株の投資信託だって増やすことができた可能性が大きいでしょう。

普通に投資したら儲かるはず

もちろん、投資信託はリスクがある商品です。ですから、投資環境がいい時期でも全員が全員儲けられるわけではありません。中には損をする残念な人もいます。

とはいえ、やっぱり、半分近くが含み損を抱えているというのはかなり異常と言わざるを得ないでしょう。何も考えなくたって儲けられるような状況で、損をしているわけですから。

GPIFはかなり儲けている

普通に運用すれば儲けられるという事実は、GPIF の運用成績を見れば分かるでしょう。GPIF は国民年金や厚生年金などの公的な年金を運用している機関です。

このGPIF の運用結果を見ると、ここ数年は、普通に運用すると儲かることがよくわかります。

  • 2010年度:-0.25%
  • 2011年度:2.32%
  • 2012年度:10.23%
  • 2013年度:8.64%
  • 2014年度:12.27%
  • 2015年度:-3.81%
  • 2016年度:5.86%
  • 2017年度:6.90%

このように、2010年度以降で見ると、マイナスになったのは2年しかありません。しかも、10%以上増えたのが2回もあります。

このように普通に運用したら、増えていくはずなのです。

GPIF では市場平均程度の運用しかできない

GPIF は専門家が運用するから、増えて当然だと思う人もいるかもしれません。しかし、それは大きな誤解です。

GPIF に限らず、運用規模が大きくなると、平均的なパフォーマンスの運用しかできないと考えられるからです。平均以上に大きく増やすのは難しくなるのです。

例えば、大きな機関投資家(年金基金など)だと、小さい企業の株を選択的に買うことはできません。というか、買ってもあまり意味がありません。運用している額が大きいので、小さい企業の株価が大きく上がったところで、全然儲からないからです。

結局株を買うとなると、日経平均とかTOPIX などに連動させるような形でしか買うことができないのです。積極的に運用できる部分があるとしても、それは全体からするとほんの一部に過ぎないでしょう。

つまり、GPIF 程度のパフォーマンスなら、私たちのような素人でも、目指すことができるのです。なぜなら、TOPIX や日経平均株価指数に連動するような投資信託を買うだけで良いのです。株式以外でも、債券指数やREIT指数に連動する投資信託を買うことで、平均的なパフォーマンスを残すことができます。

こうするだけで、儲ける事ができるはずなのです。

なぜ銀行窓口で投資信託を買うと損をするのだろうか

このように、ここ数年の投資環境は、誰でも儲けられる状況にあったと言っていいでしょう。オーソドックスな資産運用をしていれば、マイナスになるのが難しい状況だったのです。

それでも損をする人が多いということは、おそらく、ちょっと変わった投資信託に手を出す人が多かったのでしょうね。あるいは、必要以上に高コストの、つまり手数料が高い投資信託を買っていたかです。

少なくとも、銀行の窓口で運用している人の中には、そういう人が沢山いたと考えられます。問題は、なんでそういう人が多いかですよね。

投資信託を使った資産運用の基本すら知らない人が多い

そもそも日本の個人投資家の場合は、投資信託を使ってどのように運用するのか、ほとんど知識がない人が多いでしょう。学ぶ場所も限られていますから、積極的に情報を得ようという人でなければ、どんな運用がオーソドックスなのかすらわからないはずです。

それを知らないでデタラメをやったら、失敗する確率が高くなります。ハイリスクの割にリターンが小さい投資信託を買ったり、無駄なコストが大きい投資信託を選ぶ可能性が有るのです。

コストについて知らないと年2%は損をする

投資信託を使った運用の中で、特に重要度が高いものの一つが手数料です。知識がないまま投資している人の多くは、手数料の部分ですでに負けている可能性が大きいのです。

具体的にどの程度不利かというと、年2%前後はパフォーマンスに影響していると言っていいでしょう。これだけで運用失敗の全てを説明できるわけではありませんが、かなり大きな要素の一つだと考えられます。2

銀行の窓口では手数料が高い投資信託を積極的に売っている

ちなみに、銀行の窓口で投資信託を買っている人の多くは、特に手数料の部分で間違った選択をしている印象があります。というのも、銀行の発表する投資信託の売れ筋ランキンや、銀行の店頭にある投資信託のパンフレットをチェックすると、手数料が高いもの圧倒的に多いのです。

パンフレットになっている投資信託の手数料が高いということは、銀行が積極的に手数料の高い投資信託を売ろうとしている証拠だと考えていいでしょう。というのも、わざわざパンフレットを作っているのは、銀行が積極的に販売したい投資信託に限られるからです。あまり売る気が無い投資信託は、わざわざパンフレットは作りません。

そして、投資信託の売れ筋ランキングは、その試みがうまく言っている証拠だと言えそうです。本当に、手数料が高い投資信託ばかりが売れていて、呆れることがよくあります。

逆に、手数料の安い投資信託は、あまり積極的には売られていない印象です。それどころか、よくよく調べてみると、窓口では手数料の安い投資信託は扱わないという場合すらあります。資料を細かく読むと、オンライントレードのみと書かれていたりするのです。

つまり、ここ数年で投資信託で損をしている人の一部は、銀行にカモにされているわけですね。

補足:手数料が高い投資信託のパフォーマンスが良いというデータはない

仮に手数料が高いとしても、その分パフォーマンスが良ければ、全く問題は無いはずです。支払っている手数料以上に儲けさせてくれるなら、その投資信託は優れた投資信託と言えるでしょう。儲けさせてくれるなら、積極的に手数料を払ってもいいですよね。

しかしながら、統計的にみて、手数料の高い投資信託のほうがパフォーマンスが良いという統計はありません。むしろ逆で、手数料の安いパッシブ運用の投資信託と手数料が高いアクティブ運用の投資信託を比べると、手数料が安いパッシブ運用の方が勝ります。

つまり、銀行が手数料の高い投資信託を売るのは、完全に彼らの都合です。私達のメリットを考えてのことでは無いのです。資産運用に関しては、銀行を信じては駄目だということですね。

銀行窓口には他にも悪い噂が

ちなみに、今回の金融庁の調査とは直接の関係はわかりませんが、銀行や証券会社の窓口で購入した場合はもう一つ大きなデメリットがあると言われています。販売手数料を稼ぐために、銀行の営業が比較的短期で投資信託を売買させようとすることが有るというのです。

例えば、投資信託Aを100万円分売って、投資信託Bを同額買わせるというような事を、頻繁にするわけですね。販売手数料が3%だとすると、これだけで3万円の売上になります。

ですから、こうした売買を繰り返すほど、銀行の利益になります。逆に言うと、私たち個人投資家からすると、損をしていることになるのです。

営業としても、顧客に売買を促すには、それなりの手間がかかります。ですから、運用している額が小さい顧客にたいしては、こういうことはしない可能性が大きいです。

しかし、ある程度まとまった金額を運用している場合は、営業成績のために売買を勧められることも有るわけです。

金融機関の内部で、この手の売買はあまり勧めないようにという、お達しが出ることも有るようですけどね。自分の営業成績のためには誘惑に勝てない営業もいるでしょう。

日経新聞の分析が的外れ

ちなみに、銀行の窓口で投資信託を運用するという事象に関して、日経新聞が分析をしています。

投信の平均保有期間に近い過去3年でみても、基準価格が年率1.6%上昇したのに対し、IRは半分の0.8%どまり。どの時期でも必ずIRが下回るわけではないが「米国でも同じ傾向がある」(モーニングスターの朝倉智也社長)。

IRが基準価格の上昇率を下回る理由は「高値づかみ」だ。投信は投資経験の少ない顧客が多く、相場の高値圏で「さらに上がりそうだ」との期待から買い注文が増えやすい。販売会社もそれを後押ししてきた。逆に安値圏では不安心理から急いで売ってしまう。

例えばリーマン・ショックで相場が急落した2008年はいま振り返れば絶好の買い場。しかし同年の株式投信のデータをみると、買いと売りを差し引きした資金純流入は株価が高値圏にあった前年の7分の1だった。

「情報技術(IT)」「バイオ」「新興国」といったテーマ型投信も高値づかみになりやすい。多くは期待先行で高値になっている株式を組み入れるため、ブームが去ると下げが大きくなりがちだ。それでも販売会社は「旬のテーマは、もうかるストーリーを作りやすい」(大手証券の販売担当者)として積極的に扱ってきた。3

この引用部分で何を言っているのかというと、投資信託で運用している投資家は素人が多いので、高値づかみをしているということです。その結果、IRという投資の成績を表す指標が悪いという主張をしています。基準価格という市場平均と比較して、投資信託の成績が悪いと言いたいようです。

単なる手数料の差なのでは?

でも、これって、かなり眉唾なんですよね。というのも、過去10年のIRは投資信託が年2.2%に対して基準価格(おそらくベンチマークのことだと思われる)が4.4%だったといいます。この差である2.2ポイントというのは、信託報酬と呼ばれる手数料にかなり近いのです。

当然ですが、日経平均やTOPIX などのベンチマークには信託報酬のような手数料は発生しません。それに対して、個々の投資信託の運用成績には、信託報酬という日々の手数料が影響します。

何のことは無い、手数料が高い分だけ実際の投資信託の運用成績が悪いと言っているだけに過ぎないのです。少なくとも、実際の運用成績の方が悪いという事実のかなりの部分は、これだけで説明ができます。

この記事を読んで、日経新聞で情報を集めるのは、かなり危険な気がしてきました。日経新聞はこんなことも分かっていないのかと、不安になってしまいます。

いつ高いかはプロでもわからない

そもそも、株価というのは、いつ高くていつ安いかを判断するのは不可能です。というのも、その時点での市場参加者の総意が株価になっているからです。

つまり、色々な立場のプロが意見を出し合った結果が、現在の株価というわけです。

ということは、プロを名乗る人の中でも、現在の株価を高いと思う人もいれば、安いと思う人もいるわけです。プロだから高い安いが分かるわけでは無いのです。

その証拠に、いわゆるアクティブ運用をしているファンドの平均は、ベンチマークを下回ります。プロであるファンドマネージャーが運用しても、市場の平均に勝てないのです。手数料の分だけ負けるわけです。

つまり、いつ高くていつ安いかは、プロを名乗る人でも判断できないのです。これって、資産運用のイロハのイだと思うんですけどね。

何の証拠もなく素人だから運用が下手という偏見

投資信託は素人が買うから高値づかみをするというのであれば、それを証明する証拠を出すべきです。少なくとも記事の中では勝手に断定しているだけで何の証拠もありません。

それに、そもそも、投資信託で運用しているのは素人の投資家に限りません。例えば、GPIF のようなところの運用も、やっているのは投資信託での運用と変わらないのです。

投資信託が素人のための商品だという発想が、かなり古いものだと言わざるを得ないでしょう。投資信託が世の中に出始めた時期には、そういうことを言う人が結構いましたけどね。最近は、プロでも利用していることは、よく知られているはずです。

ということで、「投資信託を買っているのは素人だから高値づかみする」という話より、「信託報酬の分パフォーマンスが悪い」という説明のほうが、説得力は有ると思うのです。いかがでしょうか。

そして、日経新聞は本当に大丈夫なのでしょうか。ときどき、本当に不安になるような、ひどい記事を見かける事があります。

補足:メガバンク実力は大したことが無い

ちなみに、上の調査に関連して、3メガバンクが類似の調査を発表しています。それによると、2018年3月末時点でみると、約4割の投資家が含み損を抱えているのだとか。4

メガバンクの調査も上の調査と同様です。顧客ごとに2018年3月末時点で保有している投資信託の時価と買値を比較しています。個々の投資信託の含み損益の評価ではありません。

含み損を抱えている個人投資家の正確な割合ですが、「三菱UFJ銀行では全体の42%、みずほ銀行では46%、三井住友銀行は『約4割』」ということでした。まあ、どんぐりの背比べという感じでしょうか。全体の平均と比べても、たいした差はありません。

でも、メガバンクって、投資信託の販売にかなり力を入れていますよね。例えばみずほ銀行だと「資産運用相談デスク」というサービスをやっているようです。三井住友でも、ネット予約して相談が出来る仕組みを作っているようですね。

そして、相談した結果が、半分近く損をするという現状なのです。株価が上がって、普通に行動すれば儲かる状況でね。

顧客が儲けているところもあるようです

ちなみに、同じ記事によると、評価損を抱えている顧客が2割台という銀行もあるのだとか。まあ、普通にやれば、このくらいだと思うんですよね。

一部の人は、大きくリスクを取った運用をしたがるでしょうから、全員が儲かるというわけにはいきません。でも、そういう人を除けば、基本的に儲かって当たり前なのです。

ほんと、自分優先で顧客に損をさせている銀行は、恥を知れって感じです。


  1. 銀行の投資信託、46%の個人が「損」 金融庁問題提起
    朝日新聞 2018年7月5日19時19分 []
  2. この2%というのは、信託報酬という手数料から来ています。信託報酬が高い手数料を選ぶと、この程度は不利になります。 []
  3. 投信に「高値づかみ」のワナ 顧客の半数が損失
    長期保有や積み立てカギ
    日経新聞 2018/8/2 6:57 []
  4. 3メガバンクの投信、4割の客が損失 2割台の銀行も
    朝日新聞デジタル 9/4(火) 19:32配信 []

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